高橋先生より

 小児期に発症した脳脊髄液減少症

山王病院脳神経外科副部長 高橋 浩一

はじめに

小児期、学童期発症の脳脊髄液減少症の特徴として、外傷後、もしくは特発的に頭痛・めまい・倦怠感などが出現して、慢性的に持続します。 肩こりや睡眠障害、記憶障害などにより成績低下を伴う事もあります。 学業に支障を来たし、不登校になる子ども達も少なくありません。 頭部MRIや血液検査など様々な検査を施行しても異常を認めないため、起立性調節障害や自律神経失調症、片頭痛、てんかん性頭痛、統合失調症などの 精神障害、怠け病などと診断される事が多く見られます。 また、パニックや過換気、時には暴力的になることもあり、パニック障害など精神疾患との鑑別が困難になる事もあります。

原因

受傷から1か月以内に発症し、外傷が原因と考えられ症例が半数近く存在します。 外傷の内訳は、交通事故が最も多く、続いて野球やサッカー、ラグビーなどのスポーツ外傷、家庭内や学校内での受傷、転落などがあります。 受傷機転としては、頭部外傷、外傷性頭蓋内出血、頚椎捻挫、尻もちなどです。その他、腰椎穿刺後に発症した症例も存在しました。 また、発症より1ヶ月以上前に外傷があり、脳脊髄液減少症の発症の原因として疑われる例も少なくありません。 一方、発症原因が明らかでない症例が、2割強存在しました。 それから、家族発生、兄弟発生例も存在します。

診断

経過・症状により本症を疑い、脳腫瘍などの疾患を除外した後、 脳脊髄液減少症ガイドライン2007に準じて、頭部MRIで補助診断し、RI脳槽シンチグラフィー(脳槽シンチ)にて確定診断しています。

脳脊髄液減少症の画像所見として、頭部MRIでの、びまん性硬膜増強効果、脳の下垂、脳槽シンチでの髄液漏出像が広く認識されています。 しかし、若年者の脳脊髄液減少症症例の場合、 頭部MRIで異常を示さない症例が半数を超えます。また脳槽シンチで髄液漏出像を示す症例は1/3程度に過ぎません。脳槽シンチでの間接的所見、 つまりRIの膀胱内早期集積やRI残存率低下により診断される症例が2/3を占め、重要な所見と考えています。

治療

本症の治療はまず、水分補給や安静などの保存的加療を行うべきです。 これらの治療効果が乏しい場合、ブラッドパッチを考慮すべきと思います。 また、何らかの外傷後に、頭痛をはじめとした様々な症状で体調を崩し、脳脊髄液減少症が疑われた場合も、安静、水分補給を心掛けるべきでしょう。
成績

ブラッドパッチにより、著明に改善した症例は約70%、部分改善例が、約25%で、有効率が90%近くあります。 特に発症から治療までの期間が5年以下の症例は、有効率90%以上です。 治療前は、半数以上の子ども達が全く学校に行けない状態であったのが、治療により、90%以上の子ども達が、復学しています。 一方、発症から治療までの期間が10年以上経過した症例では有効率は半分程度にとどまっており、早期の診断が重要と考えています。

最後に

山王病院では、平成22年9月現在、80例以上の学童、思春期発症 (15歳以下) の脳脊髄液減少症症例を治療してきました。そして感じているのは、脳脊髄液減少症は医療関係のみならず、 教育の現場や一般社会での認知度が低く、病気の辛さに加え、理解されない苦しさを味わっているという事です。 病院を受診しても原因が分らず、中には門前払い同然に扱われる方もいます。学校でも同様で、体調不良で学校に行けないにもかかわらず、 「不登校児」と判断され心を痛め、更には「さぼるな、怠けるな!」と怒られ、非常に落ち込んだという子どももいました。 このように脳脊髄液減少症は、精神疾患や怠け癖などと判断され、対応が遅れる事が多く存在します。
しかし、

 1,外傷の存在と受傷後比較的早期(1ヶ月以内)に症状が出現
 2,起立で悪化傾向にある連日性の頭痛
 3,頭痛以外に全身倦怠感、めまい、ふらつき、首、背中、腰の痛み、吐き気集中力、記憶力低下、視覚異常などの症状が存在
 4,これまでの検査にて特に異常を指摘されず、精神的要因や起立性調節障害、自律神経失調などと診断を受けた事がある。 他覚的な神経学的異常所見は、ほとんど認められない。 鎮痛剤や向精神薬投与など他の治療効果が乏しい。 といった症状、経過を呈した場合には、本症を念頭に入れ、専門医を受診すべきと思います。

プロフィール

高橋 浩一

1965年 宮城県仙台市生まれ
1981年 練馬区立大泉西中学校卒業
1984年 東京都立富士高等学校卒業
1990年 東京慈恵会医科大学卒業、同年、東京慈恵会医科大学脳神経外科研修
1990年 東京慈恵会医科大学脳神経外科入局
       臨床に加え、中枢神経系発生学・奇形学を研究
2000年 川淵賞(小児脳神経外科学会年間最優秀論文)を受賞
2000年 医学博士修得
2000年-2001年 ロサンゼルス小児病院/南カリフォルニア大学留学
           主に脳脊髄循環生理学を研究
2001年 東京慈恵会医科大学脳神経外科 小児脳神経外科部門診療医長など
2006年 順和会 山王病院脳神経外科 脳脊髄液減少症の診断・治療に携わる
2008年 「脳卒中後遺症・脳脊髄液減少症・むち打ち症患者のための 「病に打ち克つメンタル強化法」(蜜書房)を出版
2010年 順和会 山王病院脳神経外科副部長 現在に至る

医学博士、日本脳神経外科学会専門医・評議員、小児神経外科学会会員、日本プロボクシングコミッションドクター

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